ゴールド(ry


 連続して鳴らされるクラクション。
 耳障りなタイヤのスリップ音。
 女性の叫びにも似た悲鳴。
「あ」
 と、気づいた時には全てが手遅れ。
 大きな衝撃と共に体が宙に舞い、目の前が暗くなり意識が刈り取られた。


 遠くからクラクションの音が聞こえたような気がして、ハッと目が覚めた。
 体に残っている大きな衝撃、そして宙を舞った時の感覚。
 しかし体には痛みは無く、自分が今寝ている場所は毎日のように見ている自分の部屋。
 そこでやっと自分が今までに体験していた事は夢の中の出来事であった事に気づいた。
 たまにこういった――つまり夢の中で起きた出来事を現実だと感じてしまう程にリアルな夢を見る事がある。
 こういった夢はえてして感覚も夢と同調している事が多く、目が覚めてからしばらくしても、それまでの出来事が夢だったと気づく事が出来ない。
 しかし今日、見た夢は今まで見てきた中でも、一番リアルで鮮明だった気がする。
 と、そんな事を考えながら呆けた頭で時計を見ると、七時三十分。
 何時もなら着替えも済ませて学校へ出かけている時間帯。
「あっちゃー……」
 思わず口に出してしまう程に、今までベットの上で呆けていた自分に後悔した。
 しかし、長く後悔している暇は今はない。飛び上がるようにベットから出た後に、洗面所で顔を水に濡らし、大急ぎで服を着替える。
 朝食を取っていては間に合いそうにないので、今日は朝食抜き。
 玄関に置いておいた筆記用具とノートの入った鞄を手に持って、家を出る。
 家に鍵をしていないと家を出てから気づいたけれど、戻っていては間に合いそうになかったから、多少不安だったけど、そのまま走って学校へ向かう。
 自分の住んでいる場所は坂が多く、体力に自信のない自分にとっては非常に辛い。
 丁度家から学校までの道の半分くらいの場所に着たところで、体力の限界を感じて立ち止まり息を切らす。
 しかしここまで走れば、何とか学校にも間に合うだろう。少なくとも寝坊をして遅れた時間分くらいは稼ぐ事が出来ているはずだ。
 しばらくして息がだいぶ正常に戻り、幾分楽になったので学校に向かってゆっくり歩き始める。
「ふぅ……」
 そして軽い溜息を吐きながら横断歩道を渡ろうと――


 連続して鳴らされるクラクション。
 耳障りなタイヤのスリップ音。
 女性の叫びにも似た悲鳴。
「あ」
 思い出した時には全てが手遅れ。
 大きな衝撃と共に体が宙に舞い、目の前が暗くなり意識が刈り取られた。


 遠くから連続で鳴るクラクションの音と、タイヤのスリップ音が聞こえてきた気がして目が覚めた。
 体には大きな衝撃を受け、宙を舞っていた間の感覚がまだ残っている。
 しかし痛みは全くなく、目の前に広がる視界には見慣れた自分の部屋の天井がある。
「夢……か」
 自分のその声を聞いて、今までの体験が全て夢だったのだと理解した。
 たまに本当にあった出来事だと勘違いしてしまう程にリアルな夢を見る事がある。
 今回の夢もその類の夢だろう。
 しかし何かが腑に落ちない。何となく胸につっかえたような物がある。
 と、しかしそんな事を気にしている余裕はない。今はもう七時三十分。普段なら着替えも済ませ学校へ向かっている時間なのだ。
 飛び上がるようにベットから出て、顔も洗わずに服を着替えてそのまま家を出る。
「あ、鞄と鍵……」
 と、家を出てから気づいたが、取りに戻っていると遅刻しかねない。
 多少迷った後、取りに戻るのを諦めて、大急ぎで学校に向かう。
 自分が住んでいる場所は坂が多く、体力に自信がない自分にとっては非常に辛い。
 丁度、家から学校までの道の半分程の道に差し掛かったところで、体力の限界を感じて立ち止まり息切れする。
 しかしここまで走れば、何とか遅刻しなくて済みそうだ。そう思ったところで自分の手に鞄がない事を思い出した。
「鍵は兎も角、鞄は……」
 しかし時、すでに遅し。ここまで着てしまったのだから、今日は諦めて叱られよう。
 そう思い横断歩道を渡ろうと歩き始め――


 連続して鳴らされるクラクション。
 耳障りなタイヤのスリップ音。
 女性の叫びにも似た悲鳴。
「あ」
 何もかも思い出した私はこれから来る衝撃に備えて目を瞑り――
 大きな衝撃と共に体が宙を舞い、意識が刈り取られた。


「あーーーーーーーーーー!!!!」
 意識が戻ったと同時、思いっきり叫んで体を無理矢理目覚めさせる。
 今まで見ていた物は……夢? いや、そんな事はどうでも良い事なのかもしれない。
 自分には事故にあった時の感覚と記憶が残っている。それに今回は事故に遭う直前以外の記憶も。
 つまり今回も今までと同じように、急いで外に出ると事故に遭う……と思う。
 いや、もしかしたら『ループしていたという夢』を見ていただけなのかもしれない。
 でもだからといって、自分の中にある記憶をただの夢だと楽観視するのも、いけない気がする。
 常識的に考えれば今まで見ていた全てが夢なのだろう。しかし、そう考えて無視出来ない程にこれまでの体験の記憶は鮮明でリアルだった。
 とりあえずこれからどうするか、自分の記憶にある共通の出来事は……急いで家を出ている事だろう。
 つまり、急がずゆっくりと学校へ行けば事故に遭わずに済むかもしれない。
 時事系列的に考えてもこれなら絶対に大丈夫なはずだ。
 そう思い遅刻する事を覚悟して、洗面所へ行き丁寧に顔を洗った後に、食パンをトースターで軽く焼いていちごのジャムを塗り、それを食べた後に服を着替えて、鞄を持ち家を出る。
「あ、鍵をするのを忘れてる」
 家を出てしばらく歩いていて、そこに気づいた自分は「一度戻ろうか」と考えてやっぱり辞めた。
 泥棒が入っても取るような物は何も無いし、そもそも泥棒は鍵をかけていても入ってくるものだろう。
 普通の人はそもそも人の家のドアを開けようと試みたりしないだろうし。
 と、そんな事を考えているうちに丁度、毎回事故に遭っていた場所……家から学校までの道のだいたい半分辺りにある横断歩道の前にきた。
 念の為に車がきていないかキッチリと確認してから、横断歩道を渡ろうとして――

 連続して鳴らされる甲高い音のクラクション
 耳障りなタイヤのスリップ音とブレーキ音。
 中年の女性の叫びにも似た大きな悲鳴。
「どうして……」
 音の方を振り向き、視界に入ってきた大きなトラック――
 そして大きな衝撃と共に体が宙を舞い、視界が暗くなり意識も刈り取られた。


 意識が覚醒している事に気づき瞼を上げる。視界には見慣れた天井。
 また事故に――どうして? と疑問を持つより先に絶望感が心を支配した。
 もしかしたら夢かもしれない。と思っていたのが悪かったのか? それとも家を出たのが悪かったのか? 前回は前々回やそれ以前とは違った行動を起こしたはずなのに、何が悪かったんだ。
 やっぱり今までのは全て夢? じゃあ今回は? 今回も駄目なら今回も夢で次回が現実? じゃあ次回も駄目なら? いつになれば現実が来る?
 そんな疑問や絶望が頭の中をくるくると回る。
 何度も事故に遭う運命なんじゃないか? 自分はいったい何なんだ?
 何が現実で何が夢なのかわからない。今の自分も夢の中の自分なら、何時かは現実の自分が目を覚まして「あー、妙な夢だったな」と思うのか?
 うん、そうだ。そう考えるのが自然だ。現実に時間が戻るなんて事は考えられないし。
 夢の中で見た夢……なら記憶が鮮明であってもおかしくないし。
 とはいえ、夢の中とはいえ何度も事故に遭うのは楽しいものではない。どうすれば事故に遭わずに済むだろうか。
 そう考えて一つの解決方法を思いついた。つまり外に出なければ良いのだ。
 家の中にいれば車に轢かれる事はない。もしも今の自分が現実にいるのなら、学校を欠席してしまうのは残念だけど事故に遭わずに済むし。これが夢ならそもそも学校の事なんて気にしなくて良い訳だから……。
 という訳で、学校を休み家にいる事にした自分は、着替える必要もなくなったのでベットの上に倒れ、もう一度眠る事にして目を瞑り――


 何故か聞こえる甲高い音のクラクション。
 何故か聞こえるタイヤのスリップ音とブレーキ音
 何故か聞こえる中年の女性の叫びにもにた悲鳴。
「……」
 これは幻聴だと思い無視を決め込み目を強く瞑り――
 体を襲う大きな衝撃と共に体が宙を舞い、意識が刈り取られた。


 家にいたのに何故……。そういう夢だから?
 そう、そうとしか考えられない。だから何も考えずに、現実の自分が目を覚ますのをまとう。
 そうして自分はいつ終わるともしれないループにその身を投げ捨て――


 連続して鳴らされるクラクション。
 耳障りなタイヤのスリップ音。
 女性の叫びにも似た悲鳴。
「……」
 大きな衝撃と共に体が宙に舞い、目の前が暗くなり意識が刈り取られた。


 ――結局
 彼が事故に遭わなくなる事はなく。
 幾度目かの試みの後、全てを放棄し彼は――考えるのをやめた。