釣り


 午前一時、釣竿と針やウキ、クーラー等の釣り道具一式を持って私は家を出た。
 空はまだ暗く、電灯の周りには小さな虫が沢山集まっているのが見える。
 こんな時間だからなのか、駐車場にはいつもより車が多く停まっている気がした。
 私はその中の一台、比較的小さな銀色の軽四に釣り道具一式を乗せ、車に乗り込みエンジンをかけて走り出した。
 行き先はここから十キロほど先の瀬戸内海。春先のこの時期はメバルが良く釣れる。

 海に到着した私は防波堤前の車道の隅に車を停め、釣り道具一式を出して近くの防波堤の先まで歩く。
 それから釣竿を組み立て、リール、オモリ、ウキ、ハリス、そしてメバル用の針を付けてから、針に餌のエビをつけて海に投げ込む。
 餌を海に投げてから数分、ウキがちょんちょんと小さく浮き沈みを始めたのを見て、クーラーボックスに立てかけておいた竿を急いで持ち直し、真剣にウキの動きを見る。
 チョンチョン……チョンチョン……ウキは小さく小刻みに浮き沈みを繰り返している。
 まだか……まだか……緊張して竿を持つ手に力がこもる。
 それから数秒、軽い浮き沈みを繰り返した後に一気にウキが沈む。
 それを見届けてからすぐ、竿を少し強めに上に上げて、針がかかったのを実感してリールを巻く。
 先ほどまでとは竿の重さが違っているから、何かしら魚がかかっているのは確かだろう。
 しばらくして、魚の影が海面に映る。だいたい二十センチほどだろうか。少し大きめのように見える。
 そのままリールを巻き上げて魚を釣り上げる。思ったとおり二十センチ程のメバルだ。目が少し大きく、夜という事もあってか少し不気味に見える。
 私はメバルの口からハリを取り、クーラーボックスに入れる。そしてまたハリにエビをつけて先程投げ込んだ場所に餌を投げる。
 メバルは群れで行動する為、一匹釣れると二匹、三匹と釣れる事が経験上、非常に多い。
 今回もその例に漏れず、数分後にはウキが同じように小刻みに浮き沈みを繰り返し始めた。


――そして午前三時
 クーラーボックスの中には大小様々なメバルが十五匹とカサゴが一匹。まだまだ釣れる気はするが、これだけ釣れば充分、食卓を彩るに足りるだろう。
 ハリをつけている手前の部分の糸を切り、それをゴミ袋に入れて、ウキとオモリを糸から取って釣具入れに入れる。それからリールで糸を巻き竿を解体して竿入れに入れて、私は停めておいた車に向かって歩き始めた。